■ジェニン:「対テロ作戦」の名目で3万人超の強制避難

2023年10月のガザ戦争開始後、イスラエル軍はヨルダン川西岸北部のジェニンやトルカレムに侵攻と空爆を繰り返した。イスラエル軍はジェニン大隊など、西岸北部の武装組織の制圧を掲げたが、道路や住宅、水道・電気を大規模に破壊。ジェニン、トルカレム、ヌールシャムスの三難民キャンプと周辺地域から追われた計3万3000人以上の住民が強制避難させられた。軍はキャンプを封鎖して住宅を取り壊し、2026年現在も住民の帰還は認められず、人権組織は戦争犯罪と人道に対する犯罪に当たる強制移動と批判している。(文・川上泰徳)

ジェニンでは2023年10月のハマスによる越境攻撃より前の2023年7月に行われたイスラエル軍の大規模な侵攻作戦があり、ドローン空爆と千人以上の地上部隊が投入され、パレスチナ人12人が死亡した。国連人道問題調整室(OCHA)によると、約3500人が一時避難し、キャンプ内外の道路約3.9キロ、水道管約8キロが破壊された。イスラエル軍は武器や爆発物製造施設の摘発を理由としたが、イスラエルの人権団体ベッツェレムは、住宅57棟が破壊され、住民277人が家を失ったとし、「対テロ」の名目では民間人と財産への意図的な加害を正当化できないと批判した。

ジェニン難民キャンプは、第2次インティファーダ(2000年9月-2005年)でも、イスラエル占領に対するパレスチナ人の武装抵抗の拠点として知られた。2021年、イスラム聖戦、ハマス、ファタハ系の武装組織の戦闘員が党派を超えて「ジェニン大隊」を形成し、イスラエル軍の侵入に銃や道路に仕掛けた爆発物で対抗してきた。

イスラエル軍に破壊されたと思われるジェニン難民キャンプの建物(2024年1月森佑一撮影)

10月7日のガザ戦争開始後、イスラエル軍によるジェニンへの攻撃は頻度、規模ともに拡大した。国連OCHAによると、2023年11月9日まで続いたジェニン難民キャンプへの侵攻では、子ども1人を含む13人が死亡した。2024年5月21~23日の約40時間に及ぶ作戦でも、子ども4人を含む12人が死亡し、死者には少なくとも生徒1人、医師1人、教師1人が含まれていた。イスラエル軍は従来の逮捕作戦に加え、ドローンなどによる空爆を西岸北部で繰り返すようになった。

2024年8月末から9月初めにかけて、ジェニン、トルカレムなど西岸北部で大規模作戦が行われた。OCHAによれば、ジェニン難民キャンプ、ジェニン市東部、近郊カフルダンで19人が死亡し、千世帯以上が避難した。ジェニン市の道路約25キロ、全体の約7割と、その地下の水道・下水網がブルドーザーで破壊され、約3万5000人への給水が止まった。人権組織ベッツェレムは、病院の包囲、住宅や商店、墓地、電気・通信網に及ぶ破壊を記録し、「イスラエルは民間インフラを意図的に破壊した」と結論づけた。この時は軍撤収後に大半の住民が戻ったが、居住不能になった家の住民は帰還できなかった。

さらに2024年12月、パレスチナ自治政府治安部隊が「法秩序の回復」を掲げ、ジェニン大隊を対象とする作戦を開始した。キャンプを包囲して武装勢力と交戦し、約2000世帯が避難した。ところが、自治政府部隊が撤収した直後の2025年1月21日、イスラエル軍は「鉄の壁作戦」を開始した。ガザでの停戦発効のわずか2日後だった。

攻撃ヘリ、ドローン、装甲車、ブルドーザーを伴う侵攻のなかで、住民は大挙してキャンプから避難せざるをえなかった。人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が確認した証言と映像によると、拡声器付きドローンが住民に退去を命じ、住民はイスラエル軍の検問を通って、徒歩で避難した。薬や衣服を持ち出せない人も多く、軍から避難先、食料、医療は提供されなかった。2月初めには約3490世帯のうち、キャンプ内に残ったのは約100人と報告された。

イスラエルのカッツ国防相は2月23日、ジェニンなど三キャンプは住民がいなくなったと述べ、軍に一年間の駐留準備と住民を帰還させないことを指示した。軍はHRWに対し、武装勢力が住宅や道路に爆発物を仕掛けているため長期作戦が必要であり、地域を「作り変え、安定させる」ための進入路新設には「列状に並ぶ建物の取り壊し」が必要だと説明した。

HRWの衛星画像分析では、2025年7月までにジェニンだけで少なくとも400棟、三キャンプ合計で850棟以上が破壊または深刻な損傷を受けた。HRWは、軍が全住民を退去させる軍事的必要性を立証せず、安全な避難も帰還も保障しなかったとして、戦争犯罪および人道に対する犯罪としての強制移送に当たり、『民族浄化』に当たると指摘した。

国連OCHAによれば、2026年8月時点でもジェニンなど三キャンプと周辺地域から追われた3万3000人以上が帰還できず、難民キャンプへの立ち入りは認められていない。この3年間でジェニンなど西岸北部で起きたことは、国際社会の目がガザに集中する中で、「テロとの戦い」を名目として、占領国が占領下のパレスチナ人住民を土地から排除する「民族浄化」を進めたと考えるべきだろう。

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